還元型コェンザィムQ10の実用化に向けた研究開発

摘要

コェンザィムQ10は体内で生合成される唯一の脂溶 性抗酸化物質である.体内で生合成されるため，正し くはビタミンではないが，ビ夕ミンと同様の働きをす ることからビタミンQとも呼ばれてきた.生体にとつ て重要な物質であることは多くの知見によって裏付け されている力5,それらの大部分は酸化型コェンザィム Q10を用いて得られた知見である.一方，還元型コェ ンザィムQ10は古くからその存在が知られており，コ ェンザィムQ10が体内では主に還元型として存在して いること，主要な作用の一つである抗酸化活性は還元 型のみが有することなどから，還元型は活性型である と考えられていた.従って，還元型を直接摂取すれば 酸化型よりも優れた効果が得られると期待されてい た.しかし，容易に空気酸化されてしまうため，商業 規模での製造、流通は不可能であると言われてきたこ ともあり，還元型コェンザィムQ10に関する研究デー タは極めて少ない状況であった.我々は還元型コェン ザィムQ10を実用化するため，不可能と言われてきた 商業生産の検討に取り組んだ.商業生産を実現するた めには.原末の大規模製造（酸化型コェンザィムQ10 の還元）において，酸化を抑制しながら各製造工程を 進める方法の開発が必須であつた.この難課題に対し， 還元型コェンザィムQ10の酸化原因となる諸因子（酸 素濃度，温度，溶媒など）の影響を明確にしつつ，同 時に食品用途として適切な溶媒や還元剤との組み合わ せ，製造時における各工程での所要時間の最短化（酸 化リスクの最小化）.及び実験室スケールの検討では 顕在化しにくかった課題（還元型コェンザィムQ10結 晶のろ過性の改善など）についても検討を進めた.そ の結果，簡便さ，低コスト，高品質を兼ね備えた商業 規模での製造方法を確立した.高純度の還元型コェン ザィムQ10の大量生産技術の確立は世界初であり.還 元型コェンザィムQ10の実用化における最も重要なポ イントであった.但し，最終製品を消費者へ届けるた めには，原末の製造のみならず，原末の流通，サプリ メント形態等への加工を含めた一連のサプライチェ一 ンにおける安定化（酸化防護）も課題であった.