個体間相互作用から学ぶコトミメティクス－昆虫の個体間相互作用によって変容する内部状態-

摘要

外界の環境からの刺激は生物の行動決定にとって重要な要素である．ところが，生物は同じ刺激に対して常に同じように振る舞う訳ではない．生物がおかれている環境（場）の違いによって同じ刺激でも違った行動で応答することがある．他者の存在は「場」を更に複雑で動的なものへと変容させる．生物はそのような動的で複雑な「場」においても適応的に振る舞っている．昆虫は，明瞭な行動の観察が可能で，また，注目する行動の発現を司る脳神経系の働きや，神経系を構築するここの神経細胞の働き，さらにその細胞の生理機構の基盤となる細胞内の分子基盤まで階層的に研究を進められる材料である．そこで，昆虫を対象に，個体間の相互作用にもとづいて変容する内部状態の構築メカニズムについて研究している．個体間の相互作用により，脳内で神経修飾物質として働く生体アミンが量的に変化し，行動の動機付けにかかわることがわかった．したがって，脳内の生体アミン類の働きは内部状態の構築メカニズムに重要であることが示唆されている．本講演では，コオロギやアリが個体間相互作用を通して，内部状態の恒常性を維持する仕組みに脳内の生体アミン類が関与していることを紹介する．そして，個体間の相互作用によって変容する内部状態の構築メカニズムの解明とその働きを理解することがコトミメティクス創成に重要であることを議論する．