眼杯の形態形成を引き起こす細胞活動の力学的作用

摘要

生体組織の形態形成において，多細胞の協調的な活動は，周囲の組織に力学的な作用を及ぼし，組織変形を引き起こす．眼の初期発生過程に見られる眼杯の形成において，球殻形状組織である眼胞の陥入現象は，細胞活動の力学的作用により進行する．先行研究では，眼杯形成において，眼胞の一部の領域が神経網膜に分化し，眼胞内側の面に働く収縮の弛緩と，細胞分裂による組織成長が生じることが観察されている．したがって，眼杯形態形成のメカニズムを明らかにするためには，細胞活動が組織変形に及ぼす力学的な作用を明らかにすることが不可欠である．本研究では，細胞の増殖と収縮が形態形成に及ぼす影響を解析するため，これらの細胞活動を表現する数理モデルを連続体力学に基づいて構築した．さらに，有限要素解析手法を用いて眼杯形成シミュレーションを行い，現象の再現と数値実験を通じて組織陥人のメカニズムについて力学的な観点から考察した．