動脈硬化発生における細胞·分子のナノ／マイクロメカニクス

摘要

脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすアテローム性動脈硬化症の発生プロセスでは、細胞や分子レベルで多くの力学因子が関与している。いまだにその発生メカニズムには未解明の事柄多く、生体機械工学的観点からの研究が寄与する余地は大きい。アテローム性動脈硬化症は動脈湾曲部や分岐部に好発することがよく知られており、これらの部位における内皮細胞の機能変化が動脈硬化病変発生を引き起こすと考えられている。局所的な内皮機能変化を引き起こす要因として、動脈湾曲部や分岐部における複雑な血流状態が挙げられており、流体力学的な解析も多く行われている。アテローム性動脈硬化症の発生機序は、局所的な力学刺激あるいは炎症性サイトカイン等の化学的刺激によって内皮細胞の血中脂質に対する物質透過性が上昇する。同時に白血球に対する接着タンパクの発現増加、単球に対する誘因物質(monocyte chemoattractant protein-1)の産生増加が生じ、単球が内皮細胞に接着し、さらに内皮下に浸潤する。内皮下に浸潤した単球はより貪食の盛hなマクロファージに分化し、過剰に蓄積した脂質を貪食して泡沫細胞となり、動脈硬化病変が進展していく。これらの一連のプロセスで重要なことは、内皮細胞は単に受動的に振る舞い、物質透過性の上昇や単球の浸潤を許すのではなく、細胞間隙や細胞膜表面上に発現するレセプターの量や分布を変えるなど、能動的に振る舞っていることである。