ブレーキ踏込み時の筋作用と骨の異方損傷を考慮した前突乗員下肢傷害解析

摘要

前面衝突事故において，下肢の受傷頻度は頭部に次いで高く，特に脛骨や大腿骨の骨端部の骨折は後遺障害につながることもあり社会的なコストが大きいことが知られている．下肢傷害発生メカニズムを解明するため，これまで多くの研究が行われており，衝突事故における乗員下肢傷害の2/3はブレーキ踏込み時に発生していることに着目し，衝突前のブレーキ持込みにより発生するアキレス腱の張力が脛骨骨折の発生を増加させる傾向を示唆している．しかしながら，これらの研究では献体実験や計算機シミュレーションにおいてアキレス腱のみに張力を与えるものが多く，実際のブレーキ踏込み時に作用する下肢の全ての筋の張力の影響を考慮した研究は少ない．本研究では，ブレーキ踏込み時に作用する全ての下肢の筋の有限要素(Finite Element: FE)モデルを開発し，ブレーキ踏込み実験データに基づき得られた筋活性度をモデルに与えることによりブレーキ踏込みを再現した．その後，前面衝突において想定される足裏への入力を与え，筋作用が下肢骨折に与える影響について調査した．この際，骨折をより精度良く評価するため，脛骨および大腿骨に対して骨の異方性や粘弾性を考慮した構成式モデルを用いて傷害解析を実施しており，本研究の大きな特長の一つである．