イノベーションを起こす思いはどのようにして生まれるのか－単層カーボンナノチューブ産業化への挑戦の事例からひも解く

摘要

自称駆け出しイノベーターの私がイノベーションについて論ずるのはいかがなものか？と自問するが，材料開発のイノベーションは大変時間がかかるので，イノベーションの道中の景色を書き起こすのも何某かの意味があるかと考え，思い切って筆をとることにした．イノベーションを起こすためになにが一番大事かと問うと，世間は判で押したように“思い”が大事であると言う．それは確かにその通りであるように思う．“イノベーションには思いが大事です”と言うと，では思いを持つにはどうしたらいいでしょうか？と聞かれる．当然の質問である．しかしながら，イノベーターがなぜ思いを持つのか？という問いかけは，“生きるとはなにか”と同じレベルでの根源的な問いであり，それだけに答えるのは難しいことであるように思える．そこで，本稿ではどうして私が私の思いを持つに至ったかを振り返りながら，思いの本質に少しでも迫ってみることにする．