日本海で進行する気候変動の影響

摘要

日本海は.冬季の大陸から吹きつける季節風によって 北西部海域表層が冷却され，密度を増した表層水が海底 付近まで沈み込む.独自の熟塩循環を有するなど，小さ いながらも外洋に特徴的な海洋構造が凝縮された"ミニ チユア大洋"である。ミニチュアゆえに，地球温暖化な どの気候変動に対する海洋環境への影響がいち早く現れ る可能性がある。これを裏付けるように，気象庁などの 長期にわたる海洋観測の時系列データによると.少なく とも1960年代以降については.深海において水温が徐々 に上昇しており溶存酸素濃度が減少傾向にある》こと が明らかになつている。これは近年の温暖化により日本 海の熱塩循環が弱化していることを示唆しているものと考えられている1)。我々の研究グループでは，20年以上 にわたつて日本海全域での総合的な海洋観測を実施し. 気候変動が海洋環境に及ぼす影響に関する研究プロジュ クトを実施してきた。本稿では.日本海が"ミニチュア 大洋"と呼ばれる所以を解説するとともに.気候変動の 影響とされる日本海の「熱塩循環の弱化」や「炭素循環 の変化」に関する我々の研究成果の一部を紹介する。