暖地ジャガイモの疫病対策

摘要

本邦のジャガイモの多くは北海道で生産さ れていますので、消費者の間では「ジャガイ モ」といえば「北海道」のイメージが強いの ですが、生産量は少ないながらも国内各地に 産地があるほか、家庭菜園等でも広く栽培さ れています。このため、ジャガイモは年間を 通じて食卓に上る機会の多い親しみのある野 菜の一つになっています。また、ジャガイモ は世界的には主食に相当する品目であり、病 害虫の国際的な伝播が大きな問題となること から、本邦では植物検疫により生食用ジャガ ィモの輸入を厳しく制限し、国産ジャガイモ のみが一般に流通しています。国内生産のみ で年間を通じて新鮮なジャガイモを供給でき る背景には、秋季に収穫される北海道産ジャ ガイモの貯蔵技術の向上に加え、沖網から九 州にかけての暖かい地域で冬-春季に生産し ていることが大きな役割を果たしています。 一方、ジャガイモ疫病は、国内のみならず世 界的にもジャガイモの生産阻害要因として注目される病害の一つです。19世紀にはアイ ルランドで大発生して深刻な飢饉を起こし、 アメリカ合衆国成立の遠因となるなど、世界 史にも影響をおよぼしています。現在もなお、ジャガイモを生産する各国でメジャーな 病害として疫病対策が励行され、本邦におい てもジャガイモ栽培体系の中で基幹的な薬剤 散布の対象に位置づけられています。本稿で は、暖地ジャガイモの春作で発生の多い本病 について、発生生態と防除対策を中心に近年 の研究成果を交えて紹介します。