日本産十脚甲殻類の幼生（２）

摘要

幼生研究は，個体発生という時間軸に沿って形態と機能の変化を追っていく点に一つの特徴がある。したがって成体の分類学とは異なり，たとえば同定作業においても，種と齢期の両面からの判断が必須であり，これは同時にある種の難しさをもたらす。時間軸でみれば，ある期で使う形質が別な期では使えない，あるいは存在しないのは多々あることであり，ここで同定の完全性をめざしてすべてをカバーしようとすれば，一つの種でも他種との関連において膨大なマトリクスデータが求められる。これをやり遂げることは理屈では可能でも，現実は不可能に近いものがある。十脚目幼生を扱った名著「Larvae of decapod Crustacea」の中で，Gurneyは「一つの種の特徴をまとめることはさほど難しくはないが，属や科，さらに目と上位分類群になるにしたがい，共通の特徴をまとめることが難しくなる」と述べているが8)，これも上述の難しさを別な角度から語っているように思える。今回は十脚目内の各論に入る前に，成体の分類体系の現状にふれ，目レベルでの特徴について概説したい。