女性の冷え症を識別する指標とその精神薬理学への応用

摘要

冷え症は，四肢末端部や腰部に耐え難い冷感を覚え，とくに入眠障害や中途覚醒の原因となり，身体的苦痛と精神的苦悩が積み重なって，易疲労，情動不安，気分障害など精神面に影響を及ぼし，日常生活の質を低下させる.冷え症は，女性に多くみられ，とくに女性ホルモンが変動する時期（月経前，周産期 閉経周辺期） に顕在化することから，女性ホルモンが重要な役割を演じていることが推測される.近年，空調機器の普及や食生活の変化などを背景に，若い女性にも冷え症が増加しつつある.しかし，冷え症の診断基準や治療法は確立されておらず，冷え症とそれを背景とする精神活動の歪みをいかに改善するかは，精神神経薬理学の範疇にある課題と考える.このような観点から，まず，冷え症者と非冷え症者を識別する指標を統計学的に確立することを試み，冷え症に関連した愁訴の計量的な測定尺度の作成，非接触型レーザ-血流計による末梢循環動態の測定，サーモグラフィによる末梢皮膚表面温度の測定，緩和な寒冷ストレスに対する回復過程の解析などから判別指標を明らかにした.さらに，季節により，冷え症状がどのように変容するのかも検討した.これらの知見は，冷え症を対象とした科学的な評価系の確立につながり，薬物療法や代替医療の開発に役立つものと考えている.今後，若年女性で得られた資料をもとに，中高年女性の冷え症状や閉経後の冷え症状，男性の冷え症状なども比較検討する予定である.