摄食運動障害と中枢神経障害

摘要

摂食行為で認められる障害は，拒食症などに代表される精神的な摂食障害，嚥下障害などに代表される摂食運動障害など様々な段階で認められる.特に，嚥下運動自体の障害である嚥下障害および気管に異物が侵入する誤嚥は重篤な結果をもたらす.高齢者における死亡原因で，肺炎による割合が急激に高まる理由は誤嚥性肺炎が原因であると考えられている.嚥下は喉頭蓋による気管保護だけでなく，声門の閉鎖や呼吸の一時停止などによる呼吸機能との連携を考えることも重要である.これら嚥下運動と呼吸運動といつた機能の双方を制御し， 正常な嚥下を調節するのは孤束核をはじめとする中枢神経系による統御機構をよく理解する必要がある.微小な脳血管障害，パーキンソン病などの中枢神経系変性疾患の後遺症として誤嚥をはじめとする摂食運動障害が認められる.さらに，中枢作用薬による副作用として，摂食行為への無関心，唾液分泌抑制，嚥下運動の抑制などの精神的##機能的な摂食障害が発症する.機能的な摂食運動障害の治療法としては，従来リハビリテ-ションゃ外科的処置が行われてきた.リハビリテーションでは，辛味などの刺激物が嚥下反射を促進することがわかっていた.これは，辛味成分のcapsaicinが,迷走神経および舌咽神経知覚枝におけるsubstance Pの分泌を促進することが要因である.さらに，substance Pの合成##分泌は，大脳基底核中のdopamine含有量に左右されることが報告されている.したがって，薬物療法としてはsubstance Pの分解を抑制するangiotensin変換酵素阻害薬，脳内dopamine分泌刺激薬，dopamine前駆物質などのパ―キンソン治療薬の投与が有効である.このように中枢神経系の統御機構解析研究や神経##精神薬理学分野からの治療アブローチが，摂食運動障害に対する新たな治療法の開発につながると期待されている.