冷え症に対するヒハツ(Piper longum L．）摂取の影響：緩和な寒冷ストレス負荷後の皮膚表面温度の経時的変化

摘要

冷え症は，四肢または腰部などに耐え難い冷えを感じ，就眠障害，倦怠感，集中力や仕事効率の低下，気分障害など精神面に及ぼす影響が大きい．本研究では，伝承的に，冷え症状に有用とされる天然物のヒハツ（Piper longum L．）の摂取が，前報（山田ら，2007）で明らかにした若年女性の冷え症状の特性にどのような影響を与えるのか，非冷え症者を対照として比較検討した．大学生および大学院生の女子を対象に，冷え症群（n＝16）と非冷え症群（n＝16）を設定，それぞれ低用量（15mg）摂取群と高用量（30mg）摂取群に無作為に割り振り，二重盲検対照比較試験により実施した．対照には，デキストリンをヒハツと同一のカプセルに充填したものを用いた．身体的特徴（体重，BMI，血圧，脈拍，腋窩温度など），冷え症関連質問紙（精神的愁訴，身体的愁訴，冷え関連愁訴の3要因から構成），非接触型レーザー血流計による末梢血流動態，サーモグラフィーを用いて手指皮膚表面温度および緩和な寒冷ストレス負荷後の手指皮膚表面温度の経時的変化を測定した．冷え関連愁訴の得点，末梢血流量，腋窩と中指の温度差，緩和な寒冷ストレス負荷後の皮膚表面温度回復率を識別指標として，冷え症群と非冷え症群を判別分析したところ，判別的中率は87．5％であった．ヒハツを摂取して10分後に緩和寒冷ストレスを負荷したところ，冷え症群では低用量および高用量のいずれにおいても，摂取後，対照群に比べて有意な皮膚表面温度の回復促進効果が認められた．一方，非冷え症群では，緩和寒冷ストレス負荷後の皮膚表面温度およびその回復率には，対照群との間に有意差は認められなかった．これらの結果は，ヒハツの摂取が比較的短時間で冷え症者の皮膚表面温度を上昇させることを示唆しており，冬季の冷え症状を軽減させるのに有用な食品と考える．