<特集：信州昆虫学の将来、豊かな自然と多様性の継承>中部地方における斜面土砂移i)地の節足動物相 一未知なる生物多様性一

摘要

筆者は，信州を中心とした中部山岳地域における斜 面土砂移動地（以下，崩壊地）の地中性節足動物相をテーマに研究を行っている.信州は.標高3,000m級 の独立した山脈が連なる世界的に見ても例のない特異 的な地形をしている.垂直的な標高の幅は，複数の植 生帯を生み，それぞれの気候帯に適応した動植物を育 hでいる.また水平的には，山脈間で独立した生物の 進化を促し，高い遺伝的多様性を保っている.信州の 豊富な生物多様性は.誰の目から見ても明らかである. しかし.筆者の研究対象である崩壊地の地下を例に， 信州には研究の行き届いていない生態的ニッチが存在 し，多くの未記載種を含む未知の生物多様性が眠って いることを述べていきたい.またそれらを対象とした 景観生態学，進化学の萌芽的研究を簡単に紹介し.最 後にシンポジウムのテーマでもあった昆虫学の次世代 への伝承の可能性について，北杜市ォォムラサキセン ターの取り組みを例として挙げる.