睡眠覚醒調節機構の分子生物学

摘要

内因性の睡眠物質であるプロスタグランジンD_2は，くも膜や脈絡叢，オリゴデンドログリアに分布するリボカリン型プロスタグランジンD合成酵素（βトレース）により合成され，睡眠ホルモンとして脳脊髄液中を循環する．そして視交叉から視床下部後部に至る領域のくも膜に局在するDP受容体の伸介により，アデノシンに変換されて脳内に伝えられる，その乳アデノシンA_(2A)受容体を発現する神経系を介して視床下部前部の睡眠中枢を活性化し，GABAおよびガラニン系の抑制性の神経投射によりヒスタミン系覚醒中枢を抑制してノンレム睡眠を起こす．逆に，カフェインはアデノシンA_(2A)受容体の拮杭作用により，また，プロスタグランジンD_2やオレキシンはヒスタミン系覚醒中枢を刺激して覚醍を起こす．これらの睡眠覚醒調節の情報伝達系が，さまざまな遺伝子ノックアウトマウスを用いた研究から明らかになってきた.