「廃棄物安全」特集にあたって

摘要

化学工業の創始は18世紀後半，ルブランの時代にさかのぼるといわれる．産業革命の進行につれて繊維やガラスなどの生産量が増加して，繊維の洗浄に必要な石けんやガラスの原料でもある炭酸ナトリウムの需要も増大していった．フランス人の化学者のルブランが開発したルブラン法は，炭酸ナトリウムの工業生産に先鞭をつけたものであった．しかしルブラン法は煙突から塩酸や硫化水素を放出して深刻な労働災害や大気·河川の汚染を伴っていた．化学技術が市民生活を豊かにしてきたことは間違いないが，多くの公害問題を生みだした時期もあった．また，1974年のイギリス·フリックスボローでのシクロヘキサンの漏洩爆発をはじめ，イタリア·セベソの化学工場での反応暴走によるダイオキシン放出（1976），インド·ボパールの農薬製造工場からの猛毒のイソシアン酸メチルの放出事故（1984），スイス·バーゼルの化学倉庫火災によるライン川汚染（1986）などの化学災害が発生した．これらの汚染や災害の経験から，化学産業は社会との関わりの重要性を認識し有害物の放出抑制，物質のエネルギー危険性評価や安全のための設備機器，プロセスの危険性評価手法などを開発し，さらに安全に関する法律の整備が進められてきた．