高強度高鞄性ベイナイト型非調質鋼の降伏比に及ぼすSi含有量の影響

摘要

高強度高靭性ベイナイト型非詞質鋼の降伏比を向上する方法について，熱処理などによる方法も含めて検討および調査を実施したところ，以下の結果が得られた。 （1）鍛伸放冷後に，450℃～600℃に焼戻し処理を行うことにより，降伏比を向上することができる。 （2）また鍛造後，ベイナイト変態開始温度近傍まで空冷しその後ボックス徐冷しても,焼戻し処理による効果よりは劣るものの降伏比を向上でき，同時にベイナイト主体のミクロ組織を確保できる。 （3）降伏比は残留オーステナイト含有量と相関しており，残留オーステナイト含有量が低いほど降伏比は増加した。 これは，結晶構造的に母相より滑りやすい残留オーステナイトが減少することにより，局所的な変形が抑えられることによると推定された。（4）一方，残留オーステナイト含有量はSi含有量と相関しており，Si含有量が低いほど残留オーステナイト含有量は減少した。 これは，オーステナイト中の炭素の拡散を遅らせるSiを減少することによって，オーステナイトの炭素濃化が減少し，オーステナイトが残留しにくくなると推定された。 （5）したがって熱処理を伴わず，非調質鋼としての通常の冷却のままでもSi含有量を低下することにより，残留オーステナイトが減少し,降伏比を向上することができることがわかった。 当社ではこの知見に基づき，高降伏比を有する高強度高靭性ベイナイト型非調質鋼を開発し，既にトラック用足回り部品の非調貿鋼に実用化されている。