千葉県館山湾におけるアイゴの生活年周期

摘要

近年，西日本各地において植食性魚類による藻類の食害が指摘されており，その対策のためには植食性魚類に関する生態学的な知見を蓄積する必要がある。本研究で対象としたアイゴSiganus fuscescensはアイゴ科Siganidaeに属する代表的な植食性魚類であり，下北半島以南に分布する。沖縄県では重要な漁獲対象種となっており，産卵生態や生活史の解明が進められている。また，福岡県では磯魚資源に関する調査の一環として，資源生態や漁況に関する調査が行われている。さらに，近年では九州から東海、北陸地方にわたる広い範囲でアイゴによる海藻の食害が指摘されており，食性摂食と水温軌，資源生態，行動，食害対策等に関する研究が活発に進められている。一方，アイゴは関東以北にも分布するが，漁獲対象種とはなっておらず，また，海藻の食害も顕在化していなかったため，研究事例は少ない。これまでに，神奈川県城ケ島における産卵期や食性，小田原市の造成藻場における食害33）が報告されているが，漁獲実態や資源生態の詳細は明らかにされていない。一方，近年では水温上昇にともなう分布域の北上も懸念されており軌，今後，関東以北でもアイゴによる海藻の食害が顕在化する恐れがある。