リレー連載フィールズ賞で語る現代数学第1回フィールズ賞で語る現代数学

摘要

よく知られている通りノーベル数学賞というものはない.この理由についてはいろいろなことが言われているが，ノーベルと，当時スウェーデンの代表的数学者であったミッタク?レフラーの不仲を原因の一つとするものが多いようである.いずれにせよ，そのかわりにフィールズ賞が数学界最高の賞として知られており，しばしば「数学のノーベル賞」と言われてきた.巨額の賞金を出すアーベル賞ができてからも，フィールズ賞の権威にはあまり影響がないようである.40歳以下という年齢制限があるにも関わらず，新人賞的な位置づけではなく，最高権威の賞ということになることができた理由の一つはもちろん，最高レベルの数学が若い数学者によって築かれてきたからである.歴史的大予想の解決や，革命的理論の創始の多くが若手数学者によることは数学の学問的特質と言ってよいだろう.大学にいて他の学科や学部を見ていると，数学では若い人が高い扱いを受けていることが他分野よりずっと多いことに気づく.さらにそれに加えて，偉大な業績が出たときにあまり時間をおかずに賞を与えてきたこと，受賞者がその後長く，最高レベルで活躍する例が多かったことも権威を作るのに大きな役割をはたしてきたと言えるだろう（ノーベル賞の受賞対象業績は何十年も前のものであることが少なくないのと対照的である）.この連載ではフィ一ルズ賞の各受賞者を分野ごとに取り上げ，その業績や人となりについて順に専門家に解説していただくことになっている.これによって現代数学が発展してきた様子が浮かび上がるものと期待している.