高齢化社会て需要高まる医療·福祉材料－開発事例：軟骨を再生するヒアルロン酸/II型コラーゲン複合材料

摘要

軟骨の主成分であるヒアルロン酸とII型コラーゲンを架橋することによって軟骨再生材料を開発した．凍結乾燥した複合体は多孔質であり，材料中での細胞の三次元培養が可能である．現在，わが国では高齢化が進行し，日常生活に支障をきたす運動機能疾患が急激に増加している．運動機能の低下は，寝たきりや車椅子の生活につながり，高齢者の場合，ほぼ確実に痴呆症を誘発する．そのため，運動機能を再建する医療技術や再生材判の開発が強く求められている．関節軟骨は身体にかかる荷重を吸収し，骨と骨の摩擦を軽減する．この軟骨はほとんどが細胞外マトリックスからできており，細胞は全体積のわずか1％を占めるにすぎない．また，軟骨には血管，神経，リンパ管組織が存在しないため，一度損傷すると再生が非常に難しい．仮に再生しても繊維軟骨になり，もともとあった硝子軟骨に比べると力学的にも生化学的にも不十分な組織になる．軟骨の細胞外マトリックスは，主にII型コラーゲン，ヒアルロン酸，プロテオグリカン（アグリカン）からできている．軟骨の再生では，ヒアルロン酸を含んだ硝子軟骨を再生する材料·技術が必要である．これまで軟骨を再生するために検討された材料は，生分解性の高分子である．例えば，合成高分子としてポリグリコール酸，ポリ乳酸およびその重合体が用いられ，天然高分子としてI型コラーゲン，コンドロイチン硫酸単体，I型コラーゲン－コンドロイチン硫酸複合体，アルギン酸およびヒアルロン酸誘導体などが用いられてきた．後者の天然高分子は，化学的架橋あるいはグリコサミノグリカンの化学的固定などを施して用いられているが，分子レベルの複合化が難しく，軟骨欠損の再生に必ずしも適しているとはいえない．本稿では，ヒアルロン酸とII型コラーザンを複合化して，軟骨類似材料を合成する手法について概説する．