腹部大動脈瘤症例における血液生化学検査値の臨床的検討

摘要

食生活の欧米化に伴い，近年，動脈硬化性疾患の増加が著しい.特に，腹部大動脈瘤は突然死をきたす 疾患であり，本疾患の関連する因子の解明が待たれている.本研究では，血液生化学検査値を検討し本疾患の関連する因子について新しい知見を得た.対象は手術適応となる最少瘤径に達した腹部大動脈瘤症例62例とし た.対照群は，腹部大動脈瘤を含む動脈硬化性疾患を有さない50例とした.男女比，性別，身長，体重，BMI (body mass index),年齢，嗜好歴?併存症，血液生化学検査値について検討した.喫煙歴と脂質異常症の2因 子が，腹部大動脈瘤群で対照群より有意に頻度が高かった（各々p=0.030， p=0.002).また，エイコサペンタエン 酸（eicosapentaenoic acid, EPA)/ァラキドン酸（arachidonic acid, AA)比は腹部大動脈瘤群（0.49 +- 0.26)で対照群 (0.60+-0.28)より有意に低値であった（p=0.021).本疾患が強い動脈硬化症としての背景を持っていることが明 らかとなつた.年齢階層別の検討では，50-59才の階層でEPA/AA比のみが，腹部大動脈瘤群（0.25 +- 0.10)で 対照群（0.56 +- 0.30)より有意に低い値を示した（p=0.011).年齢階層と腹部大動脈瘤の有無との関係でも，50-59才の階層のEPA/AA比のみが腹部大動脈瘤の有無により有意差を示した（p=0.049). EPA/AA比と若年性 腹部大動脈瘤との間に関連が認められたので，腹部大動脈瘤の予防のためには積極的な生活指導が重要と考え られた.