急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は1967年,Ashbaughらによって報告された難治性の肺傷害である.本症は急速に発症する非心原性肺水腫であり,元来は単一の臓器傷害とも考えられていたが,現在は多巌器不全症候群(multiple organ dysfunction syndrome)の肺一分画症として位置づけられている.治療技術の向上した今日でもなおARDSの死亡率は非常に高く,その病態の解明と治療法の確立は早急になされなければならない.本症においてアポトーシスはさまざまな局面で関与していると考えられている.まず,急性期においては,アポトーシスの過剰が肺上皮細胞,血管内皮細胞の損傷を助長する.一方,急性炎症時に肺内に浸潤した活性化多核白血球や,炎症後期の線維化期に過剰増殖する線維芽細胞に対しては,アポトーシスによるこれらの細胞の排除が必須となる.すなわち,過剰なアポトーシス発現が細胞傷害を引き起こす一方で,炎症の消退と損傷の修復機転においてアポトーシスは重要な役割を果たしている.
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