稲の生長を支える根〔19〕 一地上部の生長の良否は根のそれによつて規定される一 (その9)稲の，根の生育

摘要

前号までに，根の形態形成，生理について述べて きた.つぎにそれによつて形成され，そこで生理が 営まれる根の生育，すなわち根の伸長や分枝のしか たなどの根群の形成について述べる.根群の形成は1次根（冠根，または主軸根）の伸長に始まる.そこでまず根の伸長についてみると，古くは（1930年代）ガラス製円筒あるいは「根箱」 を用いて研究された.すなわち岩槻'石黒（1936) は，ガラス製円筒を用いて稲を栽培し，その表面に 現れる最先端の根端の位置の，茎葉部の生長に伴う 推移について検討し，伸長速度は生育初期には緩慢 であるが，茎葉部の生長が盛んになるにつれて速や かとなり，生長の最も盛んな分げつ期頃に最大と なって，茎葉部の生長終了 （穂揃い期頃）に前後し て根の伸長も終了する，とした.佐藤（1937.旧朝 鮮総督府農事試験場南鮮支場で，5月7日に播種し て直播き栽培）は根箱（高さ約90cm，幅、奥行約 30cmの木製で，上段部では約6cm，下段部では約 9cmの間隔で0.6cm目の金網を張った仕切りで区 切った）で稲を栽培して検討し，根群（1本の根ではなく根群全体）の伸長は，「陸羽132号（東北地 方の品種で早生）」では出穂期（8月16日）頃まで に（その時の最深根の深さは40-50cm),銀坊主（晚 生）では出穂期（9月1日）の2週間後頃に（8月 16日までに）終了 （同40-50cm)する，とした. 山川、岸川（1957.福岡県筑後市の旧農林省九州農 試で移植栽培）も同じく根箱〔佐藤(1937)よりか なり小型〕を用いてその深度別根数の推移によって 検討し，茎葉部の生長に伴う伸長の程度および伸長 終了時期は作季によって異なり，普通期栽培の根は 晩期栽培に比べて長く伸び，伸長が終了するのは普 通期栽培の「ナカセンゴク（中生の晚）」では出穂 期頃，「陸羽132号（極早生）」もほぼ同様である（表 9-1).しかし晩期栽培の2品種の伸長終了時期は出 穗期をかなり過ぎてからで，それは，最高分げつ期 から出穂期までの日数の長短に関係していると考 えられ，栄養生長が遅くまで続くと根の生長も後に ずれて後期まで行われるのではないか，とした.こ の点については，後述の北海道の品種と共通する特 性であると考えられる.