植物集団間の自然交雑と隔離に関する受粉生物学的考察〔1〕－「はじめに」ならびに1．集団間における自然交雑の様態（その1）集団間における遺伝子流動の実態を把握する際の留意点一

摘要

集団間における自然交雑によって生じる遺伝子流動が高等動植物において問題となる理由は，遺伝的に異なる集団間に遺伝子流動が生じれば集団本来の遺伝構造が変化するからである．市販種子の生産において，他品種との自然交雑による雑種混交率が農業上あるいは販売上の許容範囲を超えたときは，いくら大量に採種できたとしてもこの種子は販売できない．したがって，集団間における遺伝子流動の問題は，品種の育成や維持、増殖の際に他集団からの遺伝子流動をいかに防ぐかということを考えるうえで重要な示唆を与えるものである．ところで，用語「遺伝子流動（geneflow）」の今日的定義は，集団内または集団間における交雑（hybridization）や移住（migration）による遺伝質の交流である（Lincoln etal．1998）．歴史的には，1つの集団から他の集団に配偶子か接合子が散布されて生しる遺伝子の拡散を意味する言葉として定義された（Birdsell1950）．これを高等植物に当てはめれば，集団間における花粉（雄性配偶体）または種子あるいはランナ、一など栄養繁殖器官としての栄養体（胞子体）による遺伝子拡散である．