植物集団間の自然交雑と隔離に関する受粉生物学的考察〔4〕－1．集団間における自然交雑の様態（その3）種間の自然交雑（1）種問における自然交雑と雑種後代の展開－

摘要

遺伝子組換え植物など1植物集団からの飛散花粉によって異種間に自然交雑による遺伝子流動が生じる可能性のある交配組合せは，栽培品種と近縁栽培種または近縁雑草や近縁野生植物との間である．たとえ種間に雑種第1代植物が生じたとしても，雑種植物が正常に生育せず子孫を残さなければ植物育種上や遺伝資源保全上に何らの利点も問題ももたらさない．異種間における自然交雑または人為交雑が育種的に貢献するか，異種花粉による遺伝子汚染としてとくに大きな問題となるのは，両種間に新種が成立するか否かは別にして雑種後代が継代可能な交配組合せの場合である．なお，このような場合に留意すべきことば，種間の交配組合せによって交雑不親和性の強さに差異がみられるが（皿嶋，生井1979，Namaietal．1980），その程度は植物の内的，外的環境要因や他家受粉の様態などによって大きく変動するということである（生井1998）．そしてまた，雑種後代の細胞遺伝学的様相が交配組合せによって多様であり（皿嶋1973，生井1976），雑種個体が親集団との戻し交配を繰り返す浸透交雑などによって結果的に一方の種から他方の種への遺伝子移入が行われる場合と，雑種個体の染色体数が倍加して最終的に新種の異質倍数体植物が成立する場合とがあり，前者の場合が多いということである（Grant1981）．