海洋真核性微細藻類ウィルスの現状と生態学的研究

摘要

すべての生物の源である海，その中にはおびただしい量のウィルスが存在している.これらのウイルスは海洋の様々な生物に感染する力、その中には微細藻類に感染するものもある.1980年代に「海 洋微細藻類に感染するウィルス」の存在が知られ，それ以降，これら微細藻類ウィルスの情報が蓄積 されてきた.そして，これまでに40種以上の微細藻類ウィルスが発見され，それぞれが多様なウイ ルス群に分類されることが分かってきた.また一方で，海洋ウィルスの多くが海洋パクテリァに感染 するファージであるものの，海洋微細藻類に感染するウィルスの量はそれに次ぐ量であるとも言われ， ウィルス自体のバイオマス，そして海洋微細藻類の生態や進化に対して重要な働きを持っていると考 えられてきた.藻類は地球上の一次生産の半分を担うとも言われており，微細藻類に感染するウィル スが，その宿主個体群の動態に及ぼす影響は，生物生産の観点からも無視できない.そのため，生態 学的な視点での微細藻類ウイルスの研究が小規模ながらも地道に行われ，徐々に環境中におけるゥィ ルスの役割が理解されつつある.一方.微細藻類ウィルスの感染に関わる分子機構については，ほと んど理解されていないという課題もあり，両者の生態学的関係を理解する為の，分子細胞学的研究基 盤の強化が強く望まれている.本総説では，これまでの海洋における微細藻類ウィルス研究について の概要を報告し.そして今.求められている課題について考えてみたい.