芽切り技法がもたらした黒松隆盛のきつかけ

摘要

現在でこそ、五葉松と並んで盆栽樹種の人気を二分する黒松ですが、広く愛好されるようになったのは昭和30年代以降のことで、それまではごく低い位置に甘んじていました。 国風展の初期の記念帖を見ると、百数十席中で黒松が十席にも満たないことはぎらで、わずか三席に止まった年もあるなど、現在の隆盛からは考えられない状況だったようです。 素材が流通していなかったわけではありません。 問題は黒松の乗の長さにありました。 黒松の太く充実した長い菓は、コンパクトな樹姿で大木感を表現する盆栽には不向きだったのです。 盆栽に理想的な菓の長さを実現するためには肥料、水を極力控えるしか方法が無く、豪壮な幹肌からくる迫力は誰もが認めていても、黒松本来の魅力を発揮できる環境では無かったのです。 それどころか、黒松の豪快な立ち上がりに目をつけた当時の業者によって、黒松を台木にして宮島五葉於を接ぐということも頻繁に行なわれていました。 こうして多くの素材が盆栽としての道を歩むことなく失われていきました。 まさに黒松暗黒の時代です。