精神医学からみた脳と心

摘要

最も精神病的な症状として幻覚を，また心の病とされる病態の代表として心因性健忘（および心因性遁走、多重人格）を取りあげ，それぞれについての最近の脳画像研究を紹介し，私見を述べた．幻覚が出現しているときには，それに対応した知覚連合野での脳活動が認められる．しかし幻覚の出現は，基本的には主観の異常であり，自らの脳内で生じる知覚やイメージが自分のものであるという感覚がどのようにして生じるのかが問題と思われた．また，心因性健忘における脳機能障害が徐々に明らかになりつつある．しかしこの病態の背景には自己の異常が存在しており，この自己という記憶のセットに関する研究が今後必要と思われた．主観と自己というものが，精神医学からみた脳と心に関する一番不思議な現象である．