反復説ゲノムと発生と進化の悩ましい問題その5

摘要

今回は，ウォディントンの遺伝的同化とその意義について議論する予定であったが，思わず長谷部氏の反復説の話題（本誌2003年1月号）に引っ張られることになってしまいそうである．とはいえ，実のところウオディントンの世界と反復説は，意外に近いところにあるのだ．そういうわけで，「個体発生は系統発生を繰り返すか否か」が今回のテーマだ．つまり，“反復説”と呼ばれる，あの名高い教義についてである．これはあくまでドグマであり，理論ではない．やっかいなことに，理論よりもドグマがはびこりやすいのは，それがどこか人間の自然な感性に強く訴えるものをもつからだ．ある偉大な比較発生学者が言うように，「発生過程も進化過程も，単純より複雑へと進む時間的過程である．両者の間にアナロジーを見いだすのは当たり前」ということらしい．