多摩田園都市の誕生秘話: 多摩田園都市という名前はどうやって決まったのか？

摘要

東急電鉄のルーツである田園都市株式会社が設立されて，100年が過ぎた。田園都市株式会社は渋沢栄ーの思いにより設立された会社である。渋沢栄一は，口ンドンの人口集中による環境悪化の打開策としてエベネザー•ハヮードがロンドン郊外に実現させた田園都市「レッチワース」を見て，同様に環境悪化が始まつていた東京にも田園都市が必要であるという思いから.1918(大正7)年に趣意書を発表し，田園都市株式会社を設立させた。趣意書には，北半球の都市は西南方向に必ず発展すると書かれており，渋沢栄一は東京の西南部に田園都市をつくった。それが現在の田園調布となっている。ハワードがつくった田園都市と渋沢栄ーがっくった田園都市との違いは，ハヮードは職住接近が必要と考え，田囿都市内に働く場所を設けたのだが，渋沢栄一がつくった田園都市は，働く場所を設けてはいなかった。そのため，田園都市計画を成功させるには田園都市と都心とを結ぶための交通機関が必要であった。そこで田園都市と都心を結ぶ鉄道を開設するために，目黒蒲田電鉄株式会社を設立した。しかし，当時の田園都市株式会社には，鉄道事業を担える人材がいなかった。困った渋沢栄一は，当時，既に関西で箕面有馬電気軌道株式会社（後の阪急電鉄）を設立し，電鉄経営と沿線住宅地開発を一体的に進めて成功した実業家として有名だった小林一三に電鉄業を経営する人材の推薦の依頼をしたところ，推薦されたのが，後に東急電鉄の社長となる五島慶太であった。五島慶太は，小林の推薦により目黒蒲田電鉄株式会社の実質トップに就任し，目蒲線（現在の目黒線）を開業させている。その後，田園都市株式会社が分譲する土地を売りつくし，田囿都市建設という役目を果たした際には，五島慶太は，目黒蒲田電鉄株式会社に，親会社である田園都市株式会社を吸収合併させてしまうが，渋沢栄一の思いは引継がれ，様々な「まちづくり」を展開してきた。その最大の功績が「多摩田園都市」である。東京の西南部に広がる約5,000haの土地区画整理事業と新規鉄道敷設とによる民間企業最大のまちづくりが「多摩田圃都市」である（図1)。