一般化線形混合モデルを用いた津波火災の発生件数の予沏手法

摘要

日本火災学会の調査により整備された東北地方太平洋沖地震の出 火記録を活用し，津波火災の発生件数を予測可能な統計モデルの推 定を行った。このモデルでは，「津波の作用により可燃性ガスが生じ るものを着火物として発生する火災」を予測対象の津波火災として いる。このモデル推定にあたっては，東北地方太平洋沖地震から約9時間が経過し日付が変わった頃には，津波の押し引きは弱まって おり，可燃物が押し流されることによる火災の発生は収まっていた と考え，津波の襲来した地震当日の間に津波の浸水区域で発生した 火災が，予測対象の津波火災に相当するとみなした。このとき，1) 津波や地形等の条件が地域で異なることによる過分散の発生2) 津波火災調査の難しさによるカウントデータの不備3) 数理モデルで設定する説明変数の誤差に注意し，あくまで，カウントデータや説明変数は信頼できるとい う立場のもと，全体として生じるばらつきの集積をーつの過分散と してー緒くたに扱うことで，統計モデルを推定した。ここでは，過 分散に対応可能な一般化線形混合モデルを採用した結果，津波の襲来する当日の間に，浸水区域iにおいて，у_i件の津波火災が発生す る確率は，次のポアソン分布で表される。P(у_i|λ_i) = λ_i~(у_i) × exp(-λ_i)/у_i!(12)λ_i = exp(-4.536×l0~(-1)+1.345×10~(-4)χ_(i1)+8.183×10~(-5)χ_(i2)+2.354×10~(-1)χ_(i3)+r_i)(13)ここに，λ_iは定数，χ_(i1)は流失車両数，χ_(i2)はLPガスボンベ流失世帯数，は浸水工業地域面積（km~2)，r_iは平均0，標準偏差0.771の正規分布に従うランダム効果である。ただし，本モデルでは，ポァソン分布の定数に正規分布が混合されているため，予測結果は純粋なポアソン分布には従わないことに注意する必要がある。このモデルの妥当性を検証するため，東北地方太平洋沖地震における津波火災の兖生件数を予測した所，日本火災学会による調査結果は，全ての巿区町村において，予測結果の95%区間に収まる結果が得られた。また，推定したモデルを南海トラフの地震被害想定に適用し，将来の津波において発生する津波火災の件数を予測する手法を示した。ただし，本手法により予測される津波火災の発生件数は，着火が生じる可燃物の数を表しており，この全てが周辺の瓦礫に燃え移つて大規模な延焼火災に発展するとは限らない。今後は，津波火災の延焼範囲を予測する手法の整備が課題となる。