古墳石室内の石材表面に彩色や彫刻が施されているという特徴を持つ「装飾古墳」は4〜7世紀を中心に造られた古墳の一形態であり、全国で約600基存在し、これらは現地保存され、いくつかの装飾古墳は定期的に公開されている。そのうちのーつ、熊本県熊本巿釜尾町に位置する釜尾古墳は、1769年に発見され、6世紀に築造されたと推定される装飾古墳である。古墳内の石室には鮮やかに彩色された装飾壁画があり、1921年に国の史跡に指定された。この古墳は天井石や積石の崩落が生じたことから、1967年に改修工事が行われ現在の姿となった。以前は一般公開を行っていたが、現在は、装飾壁画の劣化の危惧により熊本市教育委員会が判断して一時的に閉鎖状態にある。劣化の原因は長期的に結露水の流下や浸透雨水の落下が生じることによる顏料の流出と考えられる。古墳·洞窟のように地盤·岩盤に囲われた空間内の結露や熱水分性状にっいて理論解析にいくつか研究が行われている。Lacanetteらはフランスのラスコー洞窟の壁画を対象として、数値流体解析を行うことで、洞窟内の気流性状と温湿度性状の把握を行い、その結露発生メカニズムについて検討を行っている。李らは高松塚古墳の石室の面を対象に、発掘時の結露、乾燥のメカニズムについて熱水分同時移動の数值解析による検討を行った。小椋らは、闘鶏山古墳を対象に石郭内の遺物の取り上げを想定した発掘調査時に、石郭周辺の適切な温湿度·空気質環境の制御方法を熱水分同時移動及び空気質予測の数值解析による検討を行うことで、明らかにした。ただし、石室内の結露発生のメカニズムは、個々の文化財の周辺地盤の形状や厚さ、外界条件、空間構成、外部との接続など種々の要因が影響を与えており、そグ熱水分挙動を適切に把握するためには、個々の文化財を対象とした検討が必要となる。本研究の対象である釜尾古墳においては、池田が年間単位の温湿度測定及び、測色、水分量測定を行い、石室内の温湿度や結露等濡れの挙動について調査結果をまとめているが、石室内の装飾壁画及室内壁表面の濡れのメカニズムについて、十分な検討がなされていない。本研究では、釜尾古墳石室内の装飾の劣化原因と推定される装飾表面の濡れのメカニズムを、明らかにした上で、今後の釜尾古墳において保存·公開の面から適切であると考えられる保存施設の改修方法の提案を行うことを目的とする。%In the Kamao tumulus, the inner surface of the decorated chamber walls with paintings suffers from moisture-related deterioration. The main results of this study obtained by field surveys and numerical analysis are as follows- 1. The decorated chamber walls are wetted by dew condensation on the stone surface, the trickling of the condensed water, and rainwater infiltration from the ceiling. 2. The moisture that causes the dew condensation in the summer is introduced by the ventilation between the burial chamber and the entrance. In the summer, another source is the large amount of the evaporation on the ceiling and, in winter, on the floor when the temperature is high. 3. The most effective methods for preventing condensation in the burial chamber are to improve the ventilation during the dry seasons of autumn and winter, protect the iron door from the sun and insulate the mound in addition to waterproofing the ceiling in the burial chamber.
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