「意識=様相=21世紀」の空間のあり方を問う: 'Architekturvision 1984'展

摘要

オーストリア南部、グラーツを中心とするスタイリッシャーマルク地域の芸術祭steirischer helbstの一環として開催された"Architekturvision 1984"は、特異な建築展であった。1989年のベルリンの壁崩壊の5年前に、旧東欧とのボーダーに近接するグラーツという都市で開催されたこと。テーマは、ジョージ・オーウェルの「1984年」にちなみ「存続か、破滅か」。展覽会場は、グラーツの街の中心にあるシュロスベルクという山に第二次世界大戦の際に掘り抜かれて戦後は封鎖されていた防空墙であること。建築家はおのおの、防空墙内部(幅約6m長さ約40m)に他の建築家と関連を持たずに独自の空間を表現する。たまたまギャラリーは、クラスター状に配されているため相互の空間は干渉しない。模型や図面を展示する建築展ではなく、サイトスべシフィックなインスタレーションが求められたと言えるが当時はまだそんな呼び方は一般的ではなかったと思う。それに、自らの血で壁画を描いたイムレ・マコペッツの空間などは、インスタレーションという言い方だと軽過ぎるだろう。キュレーションはソクラテス・デミトリュー教授(グラーツ工科大学•建築史)。招待された建築家は、基本的にはグラーッとその近傍で活動する建築家、それに隣国のユーゴスラビア(エド•J•ラフニカ、プレドラグ•リスティック)やチェコ(イムレ•マコペッツ)、離れた場所からは、パオロ•ソレリ、原広司であった。当時のグラーツは、ギュンター•ドミニク、シスコヴィッチ/コワルスキー、クラウス•カダらが前衛的な設計活動を行っていて、〈グラーッ•シューレ〉と呼ばれるグループを形成していた。この「次代を拓く建築展」の連載の9で取り上げられているヴェネチア•ビエンナーレ第1回建築展のボストモダニズムとはまったく異なる新しい幾何学を通して空間そのものに迫ろうとするスタンスである。そうした活発な活動があったから成立した建築展だと言える。