愛知県立芸術大学音楽学部校舎

摘要

愛知県長久手市にある愛知県立芸術大学の音楽学部の新校舎である。芸大の森と呼ばれる緑豊かなキャンパスの中で,「自然の中で音楽を学ぶ」環境を大切にした。吉村順三氏が手がけたキャンパスの景観に配慮して進んだ敷地北東部の谷地に,低層の校舎を3棟に分けて配置し,アプローチする際の視線を建物で遮らず,棟のすき間やロビーのガラス越しに視界が谷へと抜けるようにして,音楽を学ぶ森との視覚的なつながりを大切にした。最も大きな音楽学部校舎は谷地の斜面に設けて建物高さを抑え,等高線に沿った「く」の字型の平面とすることで,谷の森や自然を絶えず近くに感じられる断面構成とした。室内楽ホールは天井高さ約12mのシンプルな台形断面の空間とし,壁面に県産材の10cm角の杉材を並べ,木のやさしい響きと温もりを持つ空間とした。音楽学部棟の構造計画は厚さ23cmのコンクリート壁とボイドスラブによるボックス構造を採用し,建物高さを抑える一方で,音響上レッスン室ゃ練習室の空間ボリユームを確保した。レッスン室など小空間における最適な音響を求め,東京大学生産技術研究所の坂本研究室と共同し,最新の音場シミュレーションシステムによる試奏実験を行い,天井•壁の形状,反射•吸音性能を決定した。