大学の空間と記録

摘要

建築における記録を論じる前に、まずは具体的なプロジェクトの紹介から始めたい。2014年に竣工した東京大学安田講堂の改修計画である。そもそもこの計画は、東日本大震災を契機に動き出した。少なからず被災した講堂は、耐震性の不足が明らかとなったが、同時に天井などの非構造部材においても、落下の危険性を孕んでいることが顕在化したのである。仮に天井を改修するとなると、講堂を使用できない期間が長期に及ぶ。ならばこれを機に、講堂を全面的に改修しょうということになったのである。実際、機能性という点では、特に音響や照明など、今日的な要求に応えられるものではなかったし、また、竣工以来積み重ねられてきた幾多の改修は、建築のオーセンティシティという観点からすれば、決して望ましいものばかりではなかった。こうして安田講堂竣工以来、最も大規模な改修計画が始動したのである。