迅速ゲル化可能なペクチンヒドロゲルへの創傷治癒促進効果 ならびに皮膚接着性の付与

摘要

創傷被覆材とは創傷部を覆うことで湿潤環境を提供 し、治癒を促進させる医療用材料である。湿潤環境の 維持および感染予防のために、創傷被覆材は創傷面に 密着させることが重要となる。ヒドロゲルは高い柔軟 性·水分含有率から生体組織に類似しており、創傷被 覆材として有望である。甜菜由来ペクチン(SBP)は西 洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)の酵素反応を利 用することで、溶液状態から迅速にゲル化することが でき、複雑な創傷面への密着も容易な創傷被覆材とし て利用できる。しかし、SBP ゲルには創傷部に湿潤 環境を提供すること以外の医薬的な効果は期待できな い。したがって本研究では、創傷治癒促進効果を有す るキトサンに着目した。キトサンはカニ等の甲殻から 得られるキチンを脱アセチル化することによって得ら れ、高い生体適合性から薬物送達担体や縫合糸、創傷 被覆材など様々な生物医学用途への応用が期待されて いる。しかしキトサンは酸性 pH でのみ水に溶解し、 作製したゲルは酸性となるため生体には有害である。 このような問題点を解決するため、本研究ではキトサ ンに中性域での結晶化を阻害するグルコン酸を修飾し たグルコン酸修飾キトサン(CG)を開発した。この CG をSBPに混合してゲル化させることで創傷治癒促進効 果の付与を試みた。さらに、CG は溶液状態で正に帯 電しており、負に帯電した生体組織に対する接着強度 を高める働きがあると考えられる。そこで本研究では、 SBP に CG を混合することで、創傷治癒促進効果なら びに皮膚接着性を有する迅速ゲル化可能な医療用ゲル の開発を行った。