PEMFCアノードセルチャネル内の非定常物質輸送解析（往復流動によるガス輸送）

摘要

燃料電池自動車（Fuel Cell Electric Vehicle）の普及のために，コスト低減が必須である．昨今のFCEV開発における課題のうち，航続距離，耐久性，低温起動性は実用レベルに達し，コスト低減が最も大きな課題である．一般的に，コスト低減のためには次の3つのアプローチがあり，構成部品の簡素化または廃止，材料使用量の削減，既存量産品の流用である．実際にとられる手段はそれぞれ，構成部品の簡素化においては，例えば，燃料電池スタックを構成する部品について大幅な見直しを行う，あるいは，燃料電池を発電させるシステム構成の見直しを行うことが挙げられる．材料使用量の削減の例としては，燃料電池の触媒に用いられる貴金属類の使用量を削減することが挙げられる．既存量産品の流用では，既存の内燃機関により駆動される自動車に用いられている部品を共通して使用すること等が挙げられる．本研究では，システム簡素化のため，燃料電池を発電させるシステムの構成のうち，その一つである水素循環系を廃止し，デッドエンド系での発電について注目した．ここで，燃料電池に水素を供給するシステムの方式として，広く水素循環系が採用されている（図１）．これは，発電により生成する水蒸気および液水と，燃料電池内でカソード側から透過しアノード側へ侵入する窒素を取り除くため，消費に必要な水素量より過剰に投入し，剰余分を再度スタック入口に循環させる方式である．一方，循環系を廃止した場合，供給から燃料電池スタックまでが一方通行となり，デッドエンド系と呼ばれる非常に簡素なシステムになる（図2）．しかしながら，これでは生成水や透過窒素が燃料電池内に留まるため，継続的な発電は当然不可能となる．