リングの仕様及び潤滑油の粘度がピストン系摩擦力と潤滑油消費に与える影響の実験検証

摘要

内燃機関の摩擦損失のうち，ピストン-シリンダ間が最大の割合(30～40%)を占めており，その低減は熱効率向上に必須である.通常，ピストン系の摩擦低減には，オイル粘度の低減，ピストンリング張力の低減等が有効であるが，これらは背反事象として摩耗やオイル消費の増大を招くと考えられる.これまでに，和栗らは，ディーゼル機関の浮動ライナを用いてオイル粘度及びリング張力がピストン摩擦及びオイル消費に及ぼす影響を明らかにした.大森らは，放射線を用いたエンジン実働時摩耗計測により，オイルの高温高せh断(HTHS)粘度が2.6[mPa·s]を下回るとピストンリング摩耗が急増することを明らかにした.稲垣らは蛍光油膜計測とSトレース法によるオイル消費計測を行い，リング張力低減により2ndランド油膜厚さが増大するが，これとオイル消費に必ずしも相関がないことを示した.飯島らは，ガソリン機関の浮動ライナで，摩擦力がリング合計張力に依存すること，トップ及びオイルリング張力低減はオイル消費の増大をもたらすことを明らかにした.さらに，齋藤らは，4気筒エンジンを用いてリング張力とオイル消費の関係を調べ，ボア変形の大きい気筒ほどリング張力低減によるオイル消費悪化が大きいことを明らかにした.以上の報告から，過度のオイル粘度の低減は摩耗増大を招くこと，また，過度のリング張力低減はオイル消費の増大を招くことが明らかになっている.ただし，これらが供試エンジン特有の結果か，普遍的なものかは未だ不明である.本研究では，最近設計の標準的な乗用車用エンジンの基本諸元を使用した浮動ライナ装置を用いて，粘度0W-8まで，リング合計張力を1/2以下まで低減したときの摩擦低減効果，及び0W-16までのオイル消費(以下LOC：Lubricating Oil Consumption)への影響を，単気筒エンジンによる比較的低い回転域ではあるが広範囲の運転条件で検証したので報告する.