東福寺「八相の庭」における重森三玲の作庭に関する基礎的研究

摘要

本研究の目的は，「八相の庭」の作庭において，その作庭の特徴の一端を明らかにすることである。「八相の庭」の東·南·西·北の各庭の特徴は，空と宇宙の表出された東庭，荒れ狂う海洋に浮かぶ島々が表された理想と現実の南庭，その南庭の五山にかかる斜線を，色彩に重点を置き幾何学的分割手法が介入し，市松に配されたサッキの斜線が対となるよう構成された西庭，借景と抽象性の近代的表現の北庭，其々が関連して表現されていた。その空間構成は，東·南·西·北の各庭の個別性と同時に，東庭と南庭の思想的展開，南庭から西庭の幾何学的展開，そして西庭から北庭への市松配置と，庭相互の連続的な展開性が窺われる。しかし，北庭を過ぎると，東司により分断された東庭の北部が，唯一未定の領域として広がるが，東庭へのつながりは途切れ，そこでは庭の連続的展開は途絶えている。来訪者は，室内移動の動線が未決ながら，東·南·西·北の各庭の連続的展開性から，縁に沿って時計回りの動線を辿る。逆に庭自体は，周回の動線的な空間構成を含hでいることになろうか。しかしながら，本稿では庭と主体との関わりは言及できていない，この重要な主題は今後の課題としたい。