血管網付与による立体心筋組織構築のための新規灌流培養法の検討

摘要

近年，iPS 細胞やES 細胞といった幹細胞を用いた再生医療が注目されている．本研究では生体外においてヒト心筋細胞シートを積層することにより心疾患の将来的な治療法として用いることができる移植可能な心筋組織の作製を目指す(1)．しかしながら細胞シートの積層化には酸素，栄養供給不足により細胞のネクローシスが起こることにより積層限界が存在する(2)．したがって厚い組織の作製のためには積層した細胞シート組織内に血管網を付与しながら培養液を灌流することにより酸素や栄養素を供給する必要がある(3)．これまで心筋細胞シート作製時に血管内皮細胞を共培養することにより血管網を有する細胞シートの作製に成功し，これを心筋梗塞モデルのラットに移植することで心機能が改善されたと報告がなされている(4)．この細胞シート工学を用いた心疾患治療をヒトに行うにあたり，組織のスケールアップが必要となる．このスケールアップに関してラットの大腿組織を生体由来血管床として用いて生体外で新生仔ラットの心筋細胞シートを生体外で積層し厚い組織の作製に成功したと報告がなされている(5)(6) これをヒトに臨床応用可能なスケールでの作製を目指しブタの小腸組織の血管構造を使用した血管床を用いた組織作製を試みた．ブタの小腸組織の使用にあたり細胞外マトリクスを残して細胞のみを除去することにより移植組織として用いることができる脱細胞化技術を使用した(7)．脱細胞化組織は主に界面活性剤などを灌流することにより細胞を洗い流すことにより処理される(8)．そこで本研究においてはヒトの心筋細胞シートの積層にあたり，ブタの小腸組織を単離することで作製した生体由来血管床を脱細胞化処理し用いることで臨床応用可能なヒトの立体心筋組織の作製法の確立を目指す．これにあたり脱細胞化組織の血管構造を用いた灌流培養可能なバイオリアクタの開発を行った為ここに報告する．