超高齢社会における高層建築物からの避難方法についての研究-エレベーターを利用した避難を想定して-

摘要

日本は1990年ごろから世界で最も社会が高齢化した状態を記録し続け、現在は超高齢社会を迎えている。火災が発生した場合、現状では老若男女に関わらず非常階段で避難を行わなければならない。身体能力の低下した高齢者にとってこの非常階段での避難は非常に過酷なものであることは明白である。今後社会の高齢化が進展すると、現状の対策では大火災が起きた場合に多くの高齢者が犠牲になりかねない。そこで最近エレベーターの使用を計画に組み込んだ避難が議論されている。2013年には東京消防庁がエレベーター避難に関する提言をするなど、今後一般にエレベーター避難の考えが普及する可能性が高い。このエレベーター避難について過去にもいくつかの研究がなされてきている。しかしそのどれもが高齢者が居る状況を考慮して考えていない。更にその状況で「エレベーターが停止する階の間隔」や「エレベーターを誰に使わせるか」、「エレベーターをどれだけの人に使わせるか」、「エレベーターの運行方法」といった避難時間に影響を与えうる複数の要因について考慮された研究は無い。以上を踏まえて本研究の目的は、「高齢者の存在も想定して、高層建築物におけるより良いエレベーター避難計画を見つける」ことである。それを調査するために、本研究ではエレベーター避難をシミュレートできるシミュレータを開発し研究を行った。シミュレータはD. Helbingらの Social Force Modelを参考に、エレベーターや高齢者の存在も考慮したものを開発した。高齢者の分類には要介護認定を参考にした。また避難者の移動速度や動きを現実に近いものとするために、実際に避難訓練を見学しに行き、そこで得られた避難時間や避難者の動作をシミュレータにフィードバックさせた。また、高齢者や健常者の分布は日本国内におけるそれと同じ分布にするなど、他の点でも現実に近い状況を再現できるようにした。実験は、15階建ての中規模なマンションと、25階建ての大規模なマンションを想定して行った。中規模なマンションでは、「エレベーターは、特定の順序で特定の階に停まるような運行ではなく、通常と同じでボタンを押した階に停まる運行ルールを使用し、中間避難階を10階ごとに配置し、高齢者のみにエレベーターを使わせる」という方法が最も避難時間が短くなった。また、大規模なマンションでは、避難時間に対する中間避難階の間隔の影響の存在感が薄くなっていた。今後の課題として「体力の消耗」「更に高齢化が進展した状態」の考慮が残る。