鉱物学を基礎とした宝石鑑別技術の開発

摘要

宝石鑑別は，いわゆる"本物”と"偽物”を見分ける必要性から発展してきた技術といえる。世界で最初の宝石検査ラボが英国のロンドンに設立されたきっかけは，まさに日本の養殖真珠が商業的な成功を収めた1925年頃まで遡る。筆者がおよそ20年在籍していた全国宝石学協会（以下略称全宝協とする）は1965年に設立されたが，その背景には，当時宝飾業界に紛れ込み始めていた合成エメラルドの存在が，宝石鑑別機開設立の要因の一つとなっている。宝石鑑別の対象となるものは，はとんどが鉱物であり，結晶である。したがって，宝石学はもともと鉱物学の応用として位置づけられてきたが，関連範囲は，結晶学，岩石学，地質学，化学や生物学等の広範に及ぶ。岩石·鉱物の同定と宝石鑑別とは，目指すところは同じであってもその手法における制限に大きな相違がある。岩石·鉱物の分析においては精度向上のた軌試料を粉末化あるいは溶液化され　また，薄片その他に成形されることが多い。しかし，宝石が対象の場合，完全に非破壊で行われなければならず，商品価値を損なう外観の変化（退色，変色，光沢の劣化など）が生じてはならない。