コケ植物と放射線 -福島第一原子力発電所事故から コケ植物の特性を考える

摘要

コケ植物は,小さな植物でありながら,多年生で長年にわたり同じ場所で生育する種類も多い。体 表面全体で周囲の環境との物質をやり取りする性質,汚染物質に対して高い耐性と蓄積を示す性質 は，原子力発電所の事故で放出された放射性セシウムのモニタリングにも役立っている。2011年3月11日,マグニチュード9.0の巨大 地震が東日本の太平洋沿岸を襲った。この地震に よる津波の影響で,福島第一原子力発電所(福島第 一原発)の原子炉の冷却機能が喪失したことにより 炉心が損傷し,3月15日までに1号機,3号機, 4号機で相次いで水素爆発が発生，大気中に大量 の放射性物質が放出された。この事故によりどれ くらいの量の放射性物質が放出されたかについては，さまざまな推定値があるが"，2015年8月 に公表された国際原子力機関(IAEA)の報告書で は，2011年3月から4月にかけて大気中に放出 された主要な放射性物質とその放射能として,キ セ ノン133 (133Xe)が 6,00〇-12,000 PBq (ペタ ベクレル)，ヨウ素131(⑶I)が10〇-400 PBq,セシウム137 (137Cs)が7-20 PBqという推定が 示されているセ 放射性物質の大部分は偏西風に よって海上へと流れていったが，風向きの変化に より,東日本を中心に陸地にも広く降り注いだ。 遡って1986年にウクライナ共和国で起きたチェ ルノブイリ原子力発電所事故においても，大量の 放射性物質が放出され，北半球の広い地域で放射 能が検出された。チェルノブイリでの事故から36年,福島での 事故から11年経過した現在でも，大量に放出さ れた放射性セシウム，特に半減期が30年と長く， 生物に取り込まれやすい’37csの汚染は問題視さ れている。事故の影響が及んだ地域では，さまざ まな生物について,汚染状況のモニタリング調査 が継続的に進められているが，筆者らは特にコケ