森から海までのつながりの科学 ケーススタディーから全国調査まで

摘要

我が国の沿岸漁業漁獲量が長期的に減少している.その大 きな要因のひとつとして沿岸生態系の劣化が考えられる. 沿岸域は陸域の人間活動と密接な関係を有し，埋め立て， 護岸，堰などに加えて，河川や湧水によって沿岸域に運ば れる水，栄養塩，有機物，無機粒子などから直接的な影響 を受けている.また，海と川の間を行き来する生物も多い. 健全な沿岸生態系のためには，健全な陸域と沿岸域の相互 関係が必要であり，森から海までの生態系のつながりの修 復が，沿岸生態系の再生に不可欠である.しかし，森から 海までの生態系の構造は複雑であり，生態系の連環と分断 の実態.及びそのメカニズムを解明することは容易ではな い.私たちは，九州から東北までのいくつかの地域で森里 海連環に関する詳細なケーススタディ一を行うとともに，近年急速に進歩した環境DNA分析技術を用い，日本全国 の河川で河口、沿岸域の魚類相と流域構造との関係を調 ベ，森から海までのつながりの包括的な把握を試みた.