炎症性腸疾患の病態と治療の進歩

摘要

1.潰瘍性大腸炎の疫学:潰瘍性大腸炎（ulcerative colitis : UC）は，患者数は既に20万人を超え，厚生労働省の認定する難治性疾患（臨床調査研究分野の対象疾患）のなかで最も人数が多い.世界でも米国に次いで2番目に多い.病名のごとく，主として粘膜を侵し，しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸の非特異性炎症性疾患である.特徴的な症状として，下血を伴う頻度の高い下痢と腹痛がある.病変は，直腸から連続的に口側に進展する.免疫異常が関与しており，さまざまな炎症性サイトカインが関わっている.UCの活動性の特徴は，典型的には寛解期と再燃期を繰り返す点で，寛解期には健常人とほぼ変わらない生活を送ることも通常可能である.近年，高齢者で発症する頻度が上昇する傾向にあり，さらに，高齢発症者は，非高齢発症者に比較して活動性が高く，早期の入院比率や手術率が高いことが報告された.一方で，高齢者では免疫能の低下が起こるため，通常用いる免疫調節薬の加療により，感染症等の重篤な副作用を呈する比率が非高齢者よりも増加することが報告され，問題になっている.