求核的なアルミニウムァニオンが示す特異な反応

摘要

力ルべンは炭素原子が2本の結合をもつ化学種であり，有機化学における高反応性中間体として知られている。このカルベン炭素の周りには合計6個の価電子が存在し，中心炭素原子は2中心2電子の共有結合2本に加えて，2つの軌道と2つの電子をもっていることになる〔図1(a)〕。この2つの非結合電子が同じ軌道に入っている場合は一重項カルベン，異なる軌道に入っている場合は三重項カルベンとなる。一方，カルベン炭素を13族元素に置き換えた等電子構造の6電子化学種はアニオン電荷をもつことになる。この13族元素アニオンの化学は最近までホウ素とガリウムの例に限られてきたが、〔図1(b)〕， 2018年，2019年にアルミニウムとインジウムの例が相次いで報告された。いずれの13族ア二オン種も一重項であり，ルイス塩基性·求核性を示すことから，これらは「13族元素含有分子はその空軌道に由来するルイス酸性を示す」という常識に反する化合物群として考えることが可能である。特にアルミニウムのアニオン性化合物については，2018年の最初の発見以降3年の間に，筆者らの研究も含め，非常に多くの研 究が展開されてきている。2020年には既に3報の関連する総説が出版されているが，本稿ではそれらの総説とは異なる視点で，構造化学的な分類，合成手法，分子構造の特徴，分光学的特性，化学反応性，という各項目にてまとめてAlアニオンの化学を俯瞰したい。なお，本稿は原稿執筆時点（2021年2月）で報告されているすべてのAlアニオンの論文に関してまとめたものである。