イギリス酪農GAP調査報告

摘要

GAP (Good Agricultural Practice: 農業生産工程管理）とは，「農業において，食品安全， 環境保全，労働安全等の持続可能性を確保するた めの生産工程管理の取組」（農林水産省生産局農 業環境対策課令和元年7月）のことであり，GAP 認証農産物とはGPAの基準に適合した取組を正 しく実施されていることが第三者機関において確 認され，認証を受けた生産者が生産する農産物で ある。もともとヨーロッパでは国や地域，食品会 社や小売業者などを単位とする様々なGAPの基 準が作られ，生産者や食品会社は基準に沿った生 産管理を行うことで，取引先や消費者からの信頼 を得ていた。2000年頃からは,輸出人など国を超 えた流通に対応するために基準の統一化を目的と して，GLOBAL G.A.Pのように国際的な基準と なるGAPも出てきた。日本においても，世界に 通用する日本の業界標準のGAPを構築すること を目的に，2006年11月にNPO法人日本GAP協会 が設立された。こうしてJGAPの第三者機関認 証制度がスタートし，2010年から青果物，穀物， 茶が先行してそれぞれ適合基準が定められた。当 時は，2020東京オリンピック . パラリンピック食材調達基準として，GAP等の認証制度に対する 生産者の関心が高まっていたが，青果物等農産物 においては，JGAPやGLOBAL G.A.P.取得が 比較的順調に進んでいる一方で，家畜。畜産物に 関しては，認証制度ができたのが2017年とほかの 農産物に比べて遅かったこともあり認証取得が進 んでおらず，とくに「乳用牛」「生乳」の認証数 は，2018年当時わずか6農場であった。その理由のひとつとして，認証取得費用の他，海外と国内 の飼養管理方法等の違いが指摘されていたまた， 酪農家や生産組合等からは、認証取得のメリット が明確にされておらず，生乳が一元集荷 . プール 乳価という制度で取引されていることから，認証 を取得しても差別化が難しいといった理由も挙げ られていた。しかしながら，今後，国産畜産物の 国際標準化を進め輸出拡大や差別化，また自給飼 料生産に基づく持続可能な酪農生産体系の構築を 図る上で，GAP等認証取得は重要なポイントに なると考えられる。このような背景から，制度や 認証農場の飼養管理工程,飼料生産工程，認証制 度の利用実態等についての情報を収集することを 目的として，畜産GAP取り組みの先進地である 欧州のうち，とくに日本と地理的環境や生乳取引制度などが似ているイギリスで2018年12月に調査 を行った。そのため、本文中の数値等は当時のも のである。