銀触媒の特異な化学的性質を利用した選択的分子変換法の開発：理論解析と実験的検証

摘要

銀(Ag)は古代より装飾品や宝石として重宝されており，精鍊技術が発達する以前では金よりも貴重なものとして扱われていた。現代では入手が容易であり，銀食器や銀メダルの製造または投資対象などに利用され，価値のある金属として広く認知されている。そのような銀が有機反応に広く用いられるようになったのは20世紀末からである。有機化学反応において銀触媒は，適度なLewis酸性の高さからσ-Lewis酸触媒またはπ-Lewis 酸触媒として利用されることが多い。それらを活用したへテロ環合成法は，銀触媒反応の代表例な応用例である。また，特有のhalophilicityと不溶解性から共触媒としても使用される。一方で，山本らが開発した，Ag-BINAP錯体による不斉アリル化反応といった報告を皮切りに，銀原子を不斉触媒の金属核として活用する 方法も開発されている。そのような銀の多様な活用法のひとつに，金属カルベン，金属ナイトレン反応への応用が挙げられる。