犬の鼻腔内腺癌に対する 分子標的療法

摘要

犬の鼻腔内に発生する悪性腫瘍では，上皮系腫瘍が2/3を占 めるとされ，もっとも発生頻度の高い腫瘍が鼻腔内腺癌であ る"。局所浸潤性の高い腫瘍であり，もっとも有効である治 療は放射線治療とされている。放射線治療のプロトコルと予 後が相関するとされ,分割照射,および緩和的な少分割照射の 全中央生存期間は，それぞれ8.5力月，および14.0力月とされて いる21。近年では強度変調放射線治療，および画像誘導放射線 治療の発展により，腫瘍に対して集中的に高線量(通常分割 照射の3-10倍）を少分割（1~5回）で実施する定位放射線治 療(stereotactic radiation therapy ： SRT)が犬の鼻腔腫瘍 に対して応用されるようになった。犬の鼻腔腫瘍に対する SRTの全中央生存期間は13.1力月，および19.3力月とそれぞ れ報告されており，従来の分割照射と同等もしくはそれ以上 の治療成績が得られている3'4)。このように犬の鼻腔腫瘍は，放 射線治療によって生存期間の延長は認められるものの，その 多くは根治には至らず鼻腔腫瘍の再発による局所制御困難に よって死に至る。そのため，放射線治療の有効な補助化学療法 が必要とされているが,従来から用いられてきた抗がん薬治 療の効果は限定的とされている。