SmI2－H2O系を用いたエステルの電子移動還元に基づく有機合成反応

摘要

エステルは，天然物や種々の化学製品およびそれらの合成中間体など，多くの有機化合物に含まれる官能基である。そのため，エステルを足掛かりとする変換反応の開発は重要といえる。1980年にKaganらによって，ヨウ化サマリウム（SmI2）を一電子還元剤とする有機合成反応が報告されて以来，ケトンやアルデヒドの電子移動還元に基づく変換反応が広く研究されてきた。しかしながら，ケトンやアルデヒドとは対照的に，エステルは反応性が低く，エステルの電子移動還元に基づく変換反応はほとhど知られていなかった（スキーム1a）。こうしたなかで最近，Procterらのグループは，SmI2に水を添加したSmI2-H2O系を用いることによる，エステルの電子移動還元に基づく変換反応を報告している（スキーム1b）。これらの反応系では，エステルの1電子還元が進行することでラジカルアニオン種が生成し，そこから，さらなる反応が進行することで，アルコールへの還元や，ラジカル環化反応などの興味深い変換反応が達成されている。そこで，本レビューでは，SmI2-H2O系を用いたエステルの還元的変換反応について紹介する。