海洋生態系自動観測の実現に向けた技術開発

摘要

環境は生物のあり方を規定する。人類を含めて，生物はその環境に適応した結果の現れである。ある種にとって最適な環境は，別の種にとっては必ずしもそうではなく，種それぞれ良い環境を求め順応し生きている。生命史という時間軸でみれば，生物が絶滅する原因も適応拡散する程度も環境適応の成否にかかっている。人間も生物であるから，その所与の環境で生きている。では生命の維持の成否に関わる環境の変化を必ず検知できるか否かと考えると，例えば人間は温度を敏感に感じとれるが，一酸化炭素濃度は検知できない。坑道で有毒ガスの濃度の高低を検知するために小鳥を携行するという話があるが，人間が自らの生存に及ぼす危険性に対して十分な感度をもっていないことの証左である。すなわち，体性感覚としての環境変化に対する検知能力も環境との相互作用の醸成の賜物である。これは生物としての感覚だけでなく，諸事についても同様である。一般に個人が日々の生活で何に関心を向けているかというと自然環境に対してではなく社会環境を対象としている場合が多い。すなわち経済活動であったり，国際問題であったり，恋愛問題であったりする。これはそれぞれの問題が自分や自分の属する社会集団に大きな影響を及ぼす環境で，それに応じて対応をせまられるからである。このことは羊の牧畜を生業とする遊牧民が羊の年齢，性別などに応じて多くの名前を使い分けているのに対して，日本人はすべて羊という名前で済ましていることからもよくわかる。識別能力はその変化変動に対応する必要が母となって醸成されるのである。環境問題はこのように感じる力と対応する力を一組として醸成されることを念頭においてとらえると考えやすい。そのような姿勢でまず，海洋環境に対して人間がどう対処するべきか考えてみたい。